ふわふわふわ。
くすぐったさに目を覚ませば、視界は真白だった。

「っ……!?」

思わず身体を起こす。こてりと転がったのは、まだ幼さを存分に残した針鼠だった。
あぅ、と特有の高めの声がして、こちらに腹を見せるような状態でブランケットの上に乗っかっていた。

「しゃどうおきたー?」

舌っ足らずの口調が、自分の名前を呼ぶ。どうやら転寝をしている間に乗っかられたらしい。
それでも気付かない己の不注意さを嘆くべきなのか、それとも無防備にやってくるこの子供に注意を促すべきなのか、それすらもうわからなくなってしまった。

「…ソニックと遊んでいたのではなかったのか?」
「んーとねぇ、そにっくははしってくるって、いっちゃったー」

あの男に任せて置いたのがそもそもの間違いだったかと、少々の頭痛が起きるのを自覚していた。
獣の短く大きな手が自分の頬に伸びる。さらりと髪に触れると満足そうに笑みを浮かべる。
へにゃりとした危機感も何も持ち合わせていない、その笑み。
しばらく髪の感触を楽しんでいたようだったが、何か思い出したのか身体に巻かれていたブランケットを取り上げられる。
体温で暖められた布が一枚無いだけで、少々肌寒さが襲ってきた。生理現象として震えが起こる。
何をするのか解らないまま、そのままおぼつかない指が動くのを観察する。

「そにっくがね、おしえてくれたんだ。しゃどうのよわいとこ」

にんまりと笑うその笑顔に、どこか緑柱石の瞳を持った青髪の少年が思い起こされた。
またアイツが、いらんことを教えたのだろうか。兎に角その教えて貰ったという何かが起こる前に止めさせなければ。

「…シルバー、ソニックから何を教えて貰ったのかは知らないが、それはただのからかいだと思うが…」

言い終わらないうちに言葉を奪われた。熱いぬるついた体温が唇から侵入して咥内へと入り込んだ。
歯列を軽く開けば、探るように短い舌が伸びてくる。面白がるように己から伸ばせば、緩く絡まる。
以前見られたあれの真似なのだろうか、とぼんやりと思考の中にそんな考えが浮かぶ。
稚拙でお世辞にも巧いとは言えないが、一生懸命であるのは否応無しに解る。
探るように動く獣の指が、上着のボタンを掠めていく。まずい、と脳裏で警鐘が鳴った。

「………!」

思わずべりっと剥がすように腕で抱え上げて距離を作る。
銀糸が伝う。濡れた唇。上気した頬。浮かび上がる桜色に、くらりと頭脳が揺れる。
ああもう、何て事をしてくれたんだ。下火のように淡い炎が灯っていた。

「あー、まだおわってないのに」
「何を教わったのか知らないが忘れてくれ」

残念そうに膨れるその様子は愛らしいかもしれないのだが、許してしまったら何をされるか解ったもんじゃない。
拳骨で全てを忘れさせられるのならどれだけいいかと思ってしまった。






嗚呼、あの青の笑い声が聞こえるような気がする。
あいつが帰ってきたら夕飯は抜きにしてやる。せめてもの意趣返しだった。






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