チップはいいなぁ。いつもソニックと一緒に居られるもん。

何気なく呟かれたその言葉に、何故か胸がチクリと痛んだ。



シャマールの熱気が立ち込める街に、流れる汗もそのままに立ち寄った。ECの調査が終わり、ピックル教授に調査結果を伝える為だ。
あまり報告が出来る程の事はしていないのだが、とりあえず夜の街に巣くっていたダークガイアの欠片達は粗方追い出す事に成功した。
ビル屋上に巣くう彼らを、ポールや橋のように掛かっている鉄筋を足場に親玉がいる場所へと駆けていく。
なんでまたこんな高層ビルの頂上ばかりに集まるのだろうか。足を滑らせたら一巻の終わりだろうに。
エッグマンの仕業だろうか、などとも考えた。自分の戦う為に努力を惜しまない奴ならやりかねないとも思ってしまう。
そんな事を考えても詮無い事だとは解っていたが、愚痴の一つも零したくなるのは事実だ。
ぐらつく足場が背後で軋んで落ちていく音を聞いて冷や汗にも似た感覚を味わったのも、
彼らに吹っ飛ばされて咄嗟に屋上の端の壁を爪が突き刺さるのも厭わずに掴んだのも、記憶に新しい。
夜の闇に吸い込まれるように姿を消したそれらを上から眺めた時、ぞっとしたのを覚えている。
そんな都会のすぐ近くだというのに、土壁に囲まれたこの街はそんな近代の枠から外れている。
それを言うならマズーリの方が自然という観点で言うなら外れているのかもしれないが、自分にとっては何処も特色があり、何処が一番だとかは思っていなかった。

スパゴニアから引っ越して来た教授の仮の研究室に近付く。そこには相変わらずの八重桜色が立っていた。
「あっ、ソニック!おかえりなさい!今回も大活躍だったみたいね?」
ニコリと笑顔を浮かべてはいるが、その額からは玉になった汗が伝って地面に落ちていく。
長時間この熱気の中で立っていたら、熱中症になってしまうというのに。
「エミー、ずっとここで立ってたのか?」
「だって、あたしには待ってることしかできないんだもん。だからせめて、ソニックが帰って来たときに一番に出迎えようって思ったの」
エミーからの答えは本心からなのだろう。出来るなら一緒に行きたいのに、と零すのは彼女らしい、が。
「暫くはこっちに戻らないから、教授のところでゆっくりしてろよー!」
「あっ、ちょっと、ソニックー!?」


どうも調子が狂ってしまう。何が原因なのだろう?
沢山の人々を世界を回って見てきた。色んな事に一生懸命で。
恋に焦がれて、運命の人を探す為に自分の国を飛び出した人。
最初は困りながらも、最終的には相手の大切さに気付いた人。
気になる相手に勇気を振り絞って自分の想いを打ち明けた人。
長年連れ添った相手へのプレゼントを一生懸命思い出そうとした人。
母の誕生日の為に一生懸命お金を貯めたりした子供達。


恋、愛、というものに沢山触れてきた。大切な人を想う気持ちを、沢山見てきた。
その炎に妬かれているのかもしれない。普段ならなんとも思わない桜色の行動に、何故か心が跳ね上がった。



「星が全部戻ったら、デートしてあげなくもないわよ?」
「いや、エンリョしとく」
「もー!こういう時くらいOKしてくれてもいいでしょー!?」





それもいいかもしれないと思っていることは、絶対に言ってやらない。






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