こうなる事は始めから解っていた筈なのに、いざこうなってしまうと理不尽な疑問が浮かんでしまうのは、僕が生き物であるという証になるのだろうか?
どうして僕だけが、なんて悲劇のヒロインを気取りたくはないけれど、やっぱり願わずにらいられないのは、後少しだけでもいいから君の近くに居たかった。
たったそれだけの願いすら、この世界では許されないのだろうか。



『哀憫ラメント』



ピリピリと、空気が震えているような感覚が、纏わりついて離れない。
振り払うように腕を何度か空で上下させたが、それが消える気配は皆無だった。
何処か重苦しさを感じさせる濃い灰色の雲が、朝から青空を覆い隠していた。
エンジェルアイランドに鎮座されているマスターエメラルドを守護するナックルズ族の末裔の家に、
自分の大好きな人とやって来ていた緑の色彩を纏った少年─メフィレスは、朝から自分の周りに漂う不快感に眉を潜めていた。
妙に乾燥した空気は肌を突き刺すように張り詰めていて、小さな火花が少しでも上がろうものなら容易く燃え上がってしまいそうだった。


メフィレス、最近の君は、何だか存在が希薄ではないか?

最愛の人にそう言われたのは数日前。
確かにソラリスの闇として生まれたメフィレスの包括する暗黒はあまりにも深く暗く、
イブリースという片割れを失った現在その名前に影と刻印されたその人が持つ闇では限界があるのは明白であった。
それでもメフィレスは大好きな人と離れたくはなかった。
一緒に居たいというたった一つの願い、それだけの為に辺りの影から力を得たり、最近は影の中で眠りにつき、極力姿を取ることを控えていた。
しかし、そんな彼の努力すら嘲笑うかのように、来るべき日は残酷にもやって来てしまったようだ。

 ……シャドウ。

「ん?メフィレス、どうし…」

声無き声に呼ばれて後ろを振り返った黒と紅の色彩を纏うメフィレスの愛する人は、彼が普段纏う仄いエメラルドの色彩、
それより更に炎の純度を引き上げた、蒼白い焔に全身を灼かれている己に声を掛けた張本人を見て絶句した。
何もかも諦めきった、悲しげでそれでも目の前の最愛の存在を哀しませないようにと精一杯の笑顔で、
メフィレスはただただ慈愛の笑みを浮かべたままだった。
 シャドウ、ごめん…僕なら、君の永遠すら受け止められると思ったのに。

 大切な人を喪う哀しみを、慰めてあげられると思っていたのに。

 それも、出来なくなってしまうみたい…

音にならぬメフィレスの慟哭は大地を、天を響かせた。
それは海を謳わせ、空を啼かせた。
何よりも高純度の焔に己を蝕まれ、殆ど姿さえ保てていない状態ですら、メフィレスは目の前の相手から瞳を逸らさずに。
ゆっくりと、灰のように形を失った腕を伸ばし、愛する人に触れようとした。
その指先は脆く柔く、ザラリと砂のように砕けて地面へと墜ちていく。

 …ああ、もう、君に触れることすら許されないのか…

「メフィ、レス」

 シャドウ、哀しまないで。元々僕が君の影の中で生きられる時間なんか、ごく僅かでしかなかったんだから。

「君は、僕を置いて逝くのか」

 馬鹿だなぁ。最初から僕は、此処に存在することすら出来ない体じゃないか。始めから死んでいるのと同じだよ

「君まで、僕を…ッ!
 泣かないで。ほらシャドウ、いつもみたいに笑ってよ。呆れたように、馬鹿だなって笑って。

「本当に、君という奴は…」

 ふふ、そう。その笑顔が僕は一番好きだった。世界で だ れより  き   み     を ─────










一際強く激しく、一陣の風が駆け抜けた。

太陽が漸く雲間から光を差し込み、メフィレスの最愛だった存在を照らす。
煌めく粒子が彼を包み込み、それは太陽に映り刹那の輝きを見せた。
地面に蹲り静かに嗚咽を漏らす紅色のしなやかな白魚の指には、真白の灰が握りしめられていた。








もしねがいがかなうのならば

もういちどあのひとのところにいたい。

みらいえいごうぼくのこころは

ずっとずっとあのひとのもの。





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メフィの消える日を書いた後、こうじゃなくてやっぱり炎に消えていく方がメフィっぽいんじゃないかと思って
リベンジっていう感じで書き上げた作品。
消えちゃう理由は同じです。存在していた方法も同じです。
今回ちょこっと説明も入れてみたり。うぅん、まだまだ下手糞だなぁ。

一番頑張ったのは消えてからのシャドウの描写。

と、いうかこれもっと長くしたりナッコさん出す筈だったのに
話の展開がうまく行かなくてぶった切ってそれっぽく纏めたりしてしまった…
うん、無計画良くない。でもその後の話も書けたらやってみたいな…