たまには外に、と出掛けたのがいけなかったのだろうか。
同年代の子供からすれば分別も良く、大人しい漆黒の毛並みを持ったハリネズミ。
知的探究心は恐ろしいほどに高いのだが。それが悪かったのかもしれない。
少し目を離した隙に、足元の存在は姿を消していた。

「シャドウ、シャドウー!?」

こつん、こつんとブーツが軽やかな音を立てる。
石造りの煉瓦で彩られた大通りは、鮮やかなイルミネーションが所狭しと張り巡らされていた。
元々無宗教の街だ。娯楽性ばかりが高くてイベント事は欠かさない。
甘いチョコレートの香り、沢山の赤いハートのバルーンがふわふわと宙を舞っている。
良く考えれば今日は休日だった。普段の同じ時間帯はスーツ姿の大人ばかりなのに、
今日の道行く人並みは多く、手を繋いで歩く子連れの家族も少なくはなかった。
そういえば、シャドウは時折ああいった家族というものを眺めていたような気がする。
どうしたんだと問えば、なんでもないとしか返ってはこなかったが。
無理をさせていただろうか。連れられてきた日も、あんな風に仏頂面で眉間に深い皺が寄っていた。

置いて逝かれる彼よりも、置いて逝く彼女の方が寂しそうで。

どうして気付いてやれなかったのだろうと、後悔の念が胸中を埋め尽くしていった。
彼だって大人びてはいるが、子供であることには変わり無かったのに。

肌寒い季節に着込んだ所為か、体温が上がるのが早い。
息が切れれば、白い気体が上へと流れては消えていった。
何処を探しても漆黒と紅の姿が見えない。はぐれてからどれくらい経ったのだろう?

街の中心部にある一番広い公園に差し掛かった。家族と共に食事をしている幼い子供が目に入る。
一瞬、黒い姿を見たような気がした。思わず中へと駆け込む。
ぐるりと見回せば、自分が入ってきた反対側へと抜ける黒い小さな姿が見えた。
間違い無い。彼だ。

「シャドウ!」

やっと見つけた。息はあがりきって細かくなっていたし、頬はきっと真っ赤なのだろうけど。
金紅の瞳が、こっちを向く。
一瞬哀しげな色が見えたような気がしたが、それも束の間だった。

「…どこいってたんだ?さがしたんだぞ」
「え…俺、ずっと探してて…」

やれやれ、と呆れかえった表情が、浮かんだ。心底呆れられているらしい。
緩慢な動作で指を伸ばされる。くん、と引っ張られたのは、銀糸の己の髪。

「ぼくがすこしめをはなすとこれだ。どうしようもないやつだな」
「痛い!痛いってシャドウ!!」

思わず非難の声を上げれば、満足そうにニヤリとした笑顔が浮かんだ。

「しかたないからもっていてやる。これならはぐれたりしないだろう?」









そう言っていた彼の指は、僅かに震えていたのだけど。













「なーシャドウ、そろそろバレンタインだからチョコ安いぜ。買って何か作ってやろうか?」
「…そういってまえなべをまっくろにしたのはだれだったかな」
「あれはシャドウだっていけないんだぜ!?作ってる途中に呼ぶから…!」
「どうだかな…こんどはぼくがつくってやる。きみのよりはましだろう」







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