嗚呼、この手から羽ばたいてしまうのならば
恋という名の檻に閉じ込めてしまおう。





『華堕とし』





気付いてしまったのは何時だったのだろうか。
僕以外を見ている、君に気付いてしまったのは。


それは、気付きたくなかった事実だった。君は無自覚に、あいつを目で追っていたから。

─ねぇ、あいつの事、好きなの?
 ま、まさか!そんな筈ある訳ないだろう!

そう聞いた僕に君は間髪入れずに否定していたけど、その声は微かに震えていたし、その綺麗な金紅の瞳は僅かに潤んでた。
そう、無意識にそんなにも君はあいつに嫌われる事を恐れているんだね。

見せつけられた気がしたんだ。

僕なんかじゃ君を好きになる資格すらないのかと、暗に宣告されている気がして。
僕と一緒に居るのに、あいつにそんな綺麗に濡れた瞳を向けるなんて。

嫉妬の炎が実在するというのなら、きっと僕の身体は既に妬かれ爛れていたかもしれない。
仄く暗鬱な醜いこの心は、じりじりと今日も妬かれていく。



あいつのものになる前に。

君が自覚してしまう前に。

僕から離れてしまう前に。



早く

疾く。



嗚呼そうか。

奪われてしまうその前に。

僕の所に閉じ込めてしまえばいい。



思い付いてからは早かった。
兎に角。これ以上あいつへの気持ちが大きくなる前に僕に縫い留めておかなければという一心だった。



─ねぇシャドウ。僕の事、嫌い?

 ……っ、…

君はその金紅の瞳を少し揺らがせたね。自分の気持ちに確信が持てないから、僕の言葉ですら、こんなにもぐらついてくれるんだね。
そんな君の様子に、僕の心が僅かに歪んだ悦びを浮かび上がらせたのを黙殺して、僕はゆっくりと君に近づいた。

─じゃあ、こうされるのは、嫌…?

そっと包み込んだ君の体は、微かに強張っていたけれど、拒絶はされなかった。
少し迷った後、君は緩く首を横に振って、僕からの問いかけを否定した。

嗚呼、なんて優しい。
僕はこれから、君に最低な事をしようとしているのに。
君の心に息づいている恋という名の華を、咲く前から手折ってしまおうとしているのに。
でも、僕は最低な事だと解っているけど、躊躇う気持ちは最初から全くと言って良いほどに、無い。
だって、例え君がこの気持ちに気付いたとしても、きっと君が苦しむだろう事が確信出来るから。
風の化身とも言えるあいつを好きになったとしても、きっとあいつは君だけを見るなんて事、絶対しないだろうし。
例えあいつの一番になれたとしても、きっとあいつは束縛を何よりも嫌うだろうし、そうしたら君が哀しむのは確定したようなもの。
僕は、君にはいつも笑っていて欲しいんだ。だから、君がこれから哀しむのが解っていて、賛成出来る筈、ないじゃないか。

─シャドウ、これからする事、怒らないでね…?

戸惑いを隠せないでいる君の額に、羽が触れる位の軽いキスを落とす。
君は一瞬固まってしまったけど、僕を突き放したりはしなかった。
ちゅ、ちゅ、と頬や眦に口付けて、君を見れば、君は頬を真っ赤に染めて─

 メフィレス…

嗚呼、そんな顔で僕を呼ばないで。
止まらなく、なっちゃうから。

─ねえシャドウ、すっごくドキドキしてる…

服越しに君の胸に手を当てれば、早鐘のように鼓動は響いていて。
それだけでも嬉しくて、僕は君をまたギュッと抱きしめる。

 メフィレス…

微かに君が僕を呼んで、僕は力を緩めて君と向き合った。

 …君のものになれば、君は僕のものになってくれるのか?

正直、驚いた。
まさか君があいつへの想いを自覚してただなんて、思わなかったから。
綺麗な金紅の瞳は、今にも涙が溢れてしまいそうな位に潤んでいて。

 …もう、あいつを想うのも。期待を抱くのも。
 疲れてしまったんだ…

 ソニックがナックルズと闘って、楽しそうに笑って。
 僕はどう足掻いたって、彼にあんな表情をさせる事は、出来な……!

自棄のように哀しみを湛えた笑みを浮かべた君に、僕は反射的に噛み付くようにキスをした。



どれ程そうしてたのか、僕もはっきりとは覚えてないけど。
気付いたら君が横で柔らかく笑ってるから。
僕はもう、それだけでどうでも良くなってしまったんだ。




君のものになるなんて。そんなの愚問でしかないよ、シャドウ。
だって僕は、生まれた時から君のもの。









ほぅら、捕まえた。







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他の方に見せたら「優しいメフィレス!」と言われた代物。
当初あたしのメフィレス像はもっと…こう…鬼畜めいたものだったんですが、
いつの間にかこんなシャドウ想いの子になってしまいました。

恋の華を手折る、という表現を使いたくて。


ちなみに相関図的なものは
ナッコさん←仲良し?→ソニチ←シャドウ←メフィ
みたいな感じです。一方通行。