ねえシャドウ、君に僕の声は届いているのかな?
僕は、シャドウが大好きで大好きで堪らないのに。
なのにシャドウはいっつもあの青いハリネズミの事ばっかりしか言わないんだ。
シャドウ、シャドウ──?
『さ よ な ら』
その日は、あまりにも突然で。
眩しい位の朝日が世界を照らし、辺りは光の洪水のようだった。影から生まれた影は、闇を求めて身じろぎをした。
何にでも染まる色に染め抜かれた視界の中に、ぽつん、と何にも染まらない色が儚げに浮かんでいる。
この世界の主はまだ夢の世界で幸せな物語を見ているのか、美しい長い睫を臥せたまま、シーツの上に丸まっていた。
透き通るような白磁の滑らかな肌は、この光の世界でも尚輝いて見えた。
滑り込むようにその物陰に隠れ、影はゆっくりと自分の形を作り出す。主と相違のない長い睫と漆黒の髪。
ただ違うものと言えば、主の髪は光の屈折で緋色に輝くが、それの髪は翡翠色になるのだった。
鮮やかな緑を体に纏い、影は主に手を伸ばした───
筈だったのだが、主と同じ筈の影の細く長い指は、ある筈の場所に姿を表してはいなかった。
影の表情が、歪んだ、ように見えた。既に形すら成さなくなっている腕を伸ばし、主に触れようとする。
しかし、存在しないもので触れられる筈も無く、ただ大気が動いたような気がしただけだった。
徐々に腕が、脚が、光に呑まれていく。
哀しげに揺れる翡翠色の瞳は、主に注がれたまま、最期まで彼の姿をこの眼に焼き付けておこうとするかのようで。
聞こえぬ筈の音が、空を震わせる。
その瞬間、影の姿は跡形もなく霧散した。
光の洪水の中で、眠り姫が眼を開いた。
まだ眠気が飛ばないのか、長い指で目を擦りながら、広い室内を見回し、首を傾げた。
普段なら真っ先に自分の隣に座って、満面の笑みで笑いかけてくる彼の姿が見えなかったから。
形よい唇が、彼の名前を呼ぶ。
しかし、その姿は何時になっても、目の前に現れる事は無かった。
こんなに早く、お別れが来るなんて。
まだ君に伝えてない事が、沢山あるのに。
ねえ、シャドウ。
……シャドウ。
さ よ う な ら 。
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もし、仮にソラリス戦が終わった後もメフィレスが生きていて、
それでも消えてしまう時がきたらどうなるのかなって思いながら試行錯誤しつつ書き上げた処女作。
この時点でメフィがシャドウ大好きな件について。初期設定どこいった。
簡単にどうやってメフィレスが生きていたかというと、
影を媒体に生きて居そうだなっていうのがあったので、
模した姿であろうとシャドウから形を得ているから、シャドウの影を媒体として、
そこからシャドウの力をちょっと貰ったり、そこらへんにある影で自分の力の増幅をして姿を保っていた…という感じです。
でも、ソラリスの闇なんだからシャドウの影だけで生きていくことなんてできる筈もなく…
光に溶けてしまいました。って話。