朝から周りが慌ただしかった。
まだ太陽が顔を出して間もないと言うのに、僕の家のチャイムが高らかに鳴らされた。
普段ならまだ惰眠を貪っていられる時間。
玄関の扉を開けばそこに居たのは恋に恋する薔薇の名前を持つ少女だった。

「エミー…どうしたんだ、こんな朝早くに」
「あのねシャドウ、お願いがあるの!聞いてくれない?
 ソニックの誕生日パーティを開きたいから、シャドウの家貸してちょうだい!」

一度断ったところで引き下がるような彼女ではないのは百も承知。
自分の口から溜息が零れ落ちていくのを自覚した。

「………入るといい」

蕾だった華が一気に開いたような鮮やかな笑みを浮かべながら、エミーはいそいそと部屋の中へと進んで来た。



暫くすれば普段は静寂に満たされた僕の部屋は、騒々しさに包まれた。
ケーキを作るとかでキッチンにはエミーとクリーム、テイルスが占拠している。
飾り付けにルージュとナックルズ。お互いに口喧嘩をしながらも着々と部屋は彩られていった。
普段の静けさが恋しくなって奥の部屋へと逃げようとした僕の所に生クリームをかき混ぜながらエミーがやってきた。

「ごめんねシャドウ…やっぱり迷惑だった?」
「いや…承諾したのは僕の方だ。今更断るというのもおかしな話だろう」
「……ねえシャドウ」

エミーの表情が、僅かに曇りを見せた。先程まであんなに笑っていたのにどうしたことだろうか。
言葉を促すようにただそのまま待てば、ポツリと彼女の唇が戦慄いた。
「シャドウといる時のソニックは、すっごく楽しそうなの。あたし、どうしたらあんな風に笑わせられるかな?」
驚きが隠せなかった。そんな風に彼が笑っていることなど、僕は全く知らなかったのだから。
普段彼が僕と一緒に居る時にしていることと言えば、他愛ない話をしているか僕の部屋にゲームを持ち込んで一人で遊んでいるか食事をしに来るか一緒に駆けているか…

僕のことをからかっているか、だ。

「……………」
「…シャドウ?どうしたの眉間にすっごい皺寄ってるよ?」

思い出しただけでも腹が立つ!僕が折角ゆっくりと読もうとしていた本の結末を紙に書いて栞と共に挟んでおいたり、
普段紅茶の茶葉を入れている缶のなかに乾燥若布を入れておいたりと何かと僕を怒らせようとして……!!

「Heyシャドウ!じゃまするぜー?」
「カオススピア!」

ソニックの声が聞こえた途端、抑えきれなかった激情が膨れ上がって出口を求めて放出された。
彼に向けられた力はそのまま刃となりまっすぐ向かっていったが、それは途中で威力を失い軽い音を立てて花火となる。

「危機一髪、ってやつ?」
『………??』

声がした方向を見遣れば、そこに立っていたのはシルバーだった。
どうやらカオススピアを捕らえて花火のように爆発させたのは彼らしい。

「シルバーおっそーい!なにやってたのよ、もう始まっちゃうわよ?」
「ごめんエミー。でもほら、ちゃんと準備してきたからさ」

そういうシルバーの腕の中には小さな包みが抱えられていた。それをそのまま床にへたりこんでいるソニックへと突き出す。

「とっておき、だぜ?」
「あたしとクリームとテイルスで作ったケーキもあるんだから!」



ぽかんとしているソニックの表情が、満面の笑みへと変化していった。














Happy Birthday!























「…なぁ、なんで最初っからカオススピアだったんだ?」
「フン、日頃の行いを正せという意味だ」




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